猫の歯肉口内炎は、口の中に強い炎症が起こる病気で、強い痛みを伴います。
「食べたいけれど食べられない」「食べてもすぐやめてしまう」といった行動がよく見られ、よだれや口臭、毛づくろいをしなくなるなど生活全体に影響が出てしまいます。
主な原因
はっきりとした原因は解明されていませんが、次のような要因が関与していると考えられています。
- 猫カリシウイルス、猫エイズウイルス(FIV)、猫白血病ウイルス(FeLV)などの感染
- 歯垢や細菌に対する免疫の過剰反応
- 体質や環境による影響
よく見られる症状
- 食欲が落ちる、食べづらそうにする
- よだれが増える(血が混じることも)
- 口臭が強い
- 顔まわりを触られるのを嫌がる
- 毛づくろいをしなくなる
放置すると強い痛みから体重が減少し、衰弱につながることもあります。
治療について
治療は大きく分けて「内科的治療」と「外科的治療」があります。
内科的治療(投薬やサプリメント)
- ステロイドや免疫抑制剤で炎症を抑える
- 抗生剤で口内の細菌を減らす
- インターフェロンやサプリメントで免疫バランスを整える
- レーザーで炎症や痛みを軽減する
これらは一時的に症状を和らげることはできますが、多くの場合は再発してしまい、根本的な解決にはつながりません。
外科的治療(抜歯)
炎症の原因となる歯を取り除くことで、細菌や歯垢の刺激を減らします。
- 奥歯をすべて抜く「全臼歯抜歯」
- すべての歯を抜く「全顎抜歯」
抜歯を行うことで 7〜8割の猫に改善が見られ、食欲が戻り体重が増える子も多くいます。歯を抜いてもほとんどの猫はドライフードを問題なく食べられるようになります。
当院での症例
当院で外科治療によって大きく改善したケースをご紹介いたします。
8歳の猫ちゃんで、猫エイズ(FIV)に罹患しており、重度の口内炎に加えて貧血も進行していました。貧血の指標であるヘマトクリット値は、正常が30%程度であるのに対し、わずか5%まで低下していました。
そこで、まずは輸血を行い、体調を安定させることを優先しました。
その後、全抜歯を実施したところ、術後は口腔内の炎症が大きく改善。これまで痛みで食欲が落ちていたのが一転し、なんと息子さんのごはんまで横取りしてしまうほど、元気に食欲が戻りました。
現在は貧血も落ち着き、ヘマトクリット値も正常範囲まで回復しています。
このように、内科治療だけではなかなか改善が見られなかったケースでも、外科治療を行うことで猫ちゃんの生活の質が大きく変わることがあります
実際の症例写真
歯茎からは膿が出ており、舌には深い潰瘍が認められました。
最後に
歯肉口内炎は、強い痛みで猫の生活の質を大きく下げる病気です。
内科的治療で一時的に症状を抑えることはできますが、根本的な改善のためには外科的治療(抜歯)が最も重要です。
「ご飯を食べたそうなのに食べられない」「口臭が気になる」といった症状があるときは、早めにご相談ください。
適切な診断と治療によって、愛猫の毎日を快適にするサポートをさせていただきます。